02.1 音律と音階
聞き慣れない「音律」と 分かったつもりになっている「音階」についてです
✔️ 音律と音階はどう違う
まず音律です。どの音を音楽で使うか決めることを音律と言います。ここで言っている「どの音」と言うのは、音高 (Pitch) のことです。音の三要素は音の大きさ、高さ、音色ですが、音律が扱うのは高さだけで、大きさとか音色は関係ありません。音高とは読んで字の如しで音の高さですが、あまり聞き慣れない言葉だと思います。Pitch の方がわかり易いと思うので、これ以降は Pitch と書きます。
サッカー日本代表に 24 人を選びました。これが音律です。日本中でサッカーをやっている人は星の数ほどいますが、その中で日本代表に選ばれるのは 24人だけです。音律も同じように星の数ほどの (というか無限にある)Pitch の中から 12個だけを代表に選んだと言うことです。ここで 12個と言っているのは赤のしるしをつけたところです。
音楽はこの12個の音を使ってやるんだよという決めが音律です。
「鍵盤は12個だけではなくもっといっぱいある」。確かにその通りですが、12個を決めておけば、他のいっぱいある鍵盤の Pitch は自ずから決まって来るので、音律と言った場合 Octave (オクターブ、ドからその上のド)の中で音の Pitch を決めてやれば良いことになります。
一方、音階ですが、サッカーに例えれば、24人の日本代表の中から、更に選ばれたスタメンのことです。試合前に整列するスタメンを音階と言います。つまり、音律としては12個選ばれたが、その中で音階を構成するのは白鍵で、黒鍵は音階には入れてもらえない控え組となります(C の Key では)。このスタメンで作られる音階 (Scale) を Diatonic (ダイアトニック) Scale と言います。「Ditatonic」はコードの説明では良く出てくるので、覚えてください。コードを機能で分けた場合、まず最初の分け方が Diatonic or Non-Diatonic になるので。
今 C の Key ではと書きましたが、正確には C Major Scale (ハ長調の音階)が正確です。 C Major Scaleでは控えだった黒鍵が C minor Scale (ハ短調の音階)ではスタメンになったりします。
✔️ 音律はどう決めた?
そうなると次に来るのは、12音の Pitch (音高) はどう決めたのかになりますよね。これを初めて決めたのはギリシアのピタゴラスだと言われています。中学で習うピタゴラスの定理のピタゴラス。紀元前の人です。ピタゴラスの定理という数学の定理を発見した人に、感性に訴える音楽は何かそぐわないんですが、音楽はかつて「世界を調律している秩序」だった(「西洋音楽史」岡田暁生著)。世界の秩序を科学として解明する対象の一つが音楽だった(そうです)。
ピタゴラスが 12音で作った音律は時代を経て、三全音律とか純正律とかいろいろ調整が入り、現在の12平均律になってます(かなり粗い説明ですが)。なぜ、平均律の前に 12 を付けるのか? 12個の音を配置するからです。ドからシまでで 12個。他にも 5平均律とか 7平均律とか多いところでは 53平均律というのもあったようですが、今普通に使っているのは、12平均律。平均律とだけ言ったら 12平均律のことです。
音律をどう決めたかですが、これは音程が理解できないとわからないと今気がつきました。もっと後で書きます。
✔️ Pitch と周波数
音高は英語で Pitch。周波数は Frequency です。音高を周波数から見ていきます。まず結論を言うと音楽で使う音は等差数列ではなく等比数列です。等差数列というのは、1, 2, 3 … のように一つづつ上がっていく数列。1, 3, 5 …. のように2つ跳びに上がっていく数列も等差数列です。一方、等比数列は 1, 2, 4, 8 …. と上がっていきます。倍がまた倍になり上がっていく数列。1, 3, 9, 27 … と上がっていくのも等比数列。音楽で使う音を周波数にして並べると、正に等比数列になります。
皆さん周波数って分かります? 波ができた回数を周波数と言い、それを表す単位はヘルツです。普通は一秒間に何回波ができたかで表し(Hz/秒)、/秒は省略します 。音 (音波) の場合、周波数が上がるにつれ Pitch も上がります。
✔️ 1秒で一回振れると1 Hz = 1ヘルツ
✔️ 千回振れると 1,000 Hz = 1KHz = 1キロヘルツ
✔️ 百万回振れると 1,000,000 Hz = 1MHz = 1 メガヘルツ
✔️ 十億回振れると 1,000,000,000 Hz = 1GHz = 1 ギガヘルツ
電磁波 (電波) も波ですね。ラジオのニッポン放送の AM放送は 1,242KHz、FM 放送は 93MHz。家にある Wi-Fi ルーターは 5GHz と 2GHz。電子レンジの電磁波の周波数は 2.4GHz 。ラジオとは使っている周波数帯が全然違いますね。「電波はどうでもいい」。おっしゃるとおり。ちょっと知っていると言いたくなるのは悪い癖です。
では音(音波)ですが、人間が聴こえる周波数 (可聴域) って分かります? 20Hz〜20KHz (=20,000Hz)です。犬笛は人間には聴こえません。これは人間の可聴域より上の周波数で鳴っているからです。では誰でも 20,000Hz まで聞こえるのか? スマホに可聴域チェックアプリがあります。一度試したら 11,000Hz までしか聞こえませんでした。ちょっとショック。寄る年波を感じました。
音楽は当然可聴域の音を使ってやりますが、実際にはどの音域でやるのか? この答えが出せる楽器があります。グランドピアノです。グランドピアノは普通 88鍵あり、ベースの低い音からピッコロの超高い音まで出せます。下は 27.5Hz、上は 4,186Hz です。学校の先生が、ピアノは全体を俯瞰できると良く言ってました。
この音域の中で、基準になる音の周波数が決まっています。これは決め事です。自然界からの要請とか物理の法則による必然とかではありません。人間が集まって決めた(繰り返しになりますが)決め事です。ピアノ中央の C (ド) から始まる白鍵は C, D, E, F, G, A, B ですがこの Aの音が 440Hz。これを基準にして全ての音の周波数が決まります。「440Hz と言われてもどのぐらいの Pitch かわからん」。確かに。粗く言うと、普通の女性がストレスなく(無理せずに)歌える高音がこの辺りです。
では、A = 440Hz の 1オクターブ (Octave) 低い A の周波数は? 220Hz です。その Octave 下の A は 110Hz、その Octave下が 55Hz、そのまた下が 27.5Hz です。グランドピアノの左端の白鍵の音。 A という音はOctave 下がると周波数は 2分の1に、Octave 上がると 2倍になります。1番下の A音の周波数の 2倍が Octave 上の A音 (55Hz)。その Octave 上の A音は 55Hz の2倍の 110Hz。ただ、一番下の A音を基準に言うと、2倍、4倍、8倍 … となります。つまりは等比数列。
これは他の音でもみんな同じです。C の周波数は、4403/12 、つまり、440Hz の12分の 3乗になります。計算すると約 262Hz (端数省略します)。ちょっと唐突過ぎましたが、これ以上は「音律と音階の科学」小方厚著を見てください。中央 C の周波数は 262Hz でその Octave上の C は 523Hzとほぼ 2倍。その Octave 上は 1,047Hz と中央 C からみるとほぼ 4倍です。ギターで言うと弦の長さの丁度半分のところを抑えると開放弦の1 Octave 上が出ます。その Octave 上は半分にしたそのまた半分を押さえて出します。ギターのフレットが上がるにつれ間隔が狭くなるのはこのためです。
上で「ほぼ 2倍」とか書きました。「何で丁度ではないんだ?」これが平均律です。端数がないのは Aの音しかありません。
✔️ 平均律
ここで言う平均律とは 12 平均律のことです。平均律は英語で Equal Temperament。なぜ Equal と呼ぶのか。1 Octave に入れる 12音を同じ周波数比で置いたからです。周波数差で置いたのではありません。言い方を変えると、A から その上のA の Octave で、上の A の周波数の 1/12乗を B♭とし、2/12乗を B とし、3/12乗を C…. として Pitchを決めた音律が平均律です。その意味では、平均 (Average) というより Equal の方が実態を反映していると思います。
この平均律ですが、良い点は転調に完全に対応できる点。どの Key に移っても同じ周波数比(周波数そのものは違いますが)なので。一方欠点は端数が出ているので、和音が完全には協和 (Resonant) しない点です。完全に協和するのは Octave だけ (周波数が完全に 2倍になるので)。
脱線します。昔ジンバブエというアフリカ南部にある国の皆さんが来日され、その時のパーティーでお酒も入った頃日本側からお国の歌を歌ってくれと余興リクエストが出ました。かなり躊躇されたあと歌ってくれた歌が素晴らしくハモっている。今まで聴いたことがないような純度が高いというか透明度が高いというか、そういうハモり。これって後から考えると、多分平均律ではなく純正律に近いものだった。平均律は欧米世界のものなので、ジンバブエで伝承されている音律は欧米とは違うものだった。
日本は昔西洋音楽を輸入しました。 12平均律を取り込んだ。今聴いているポップス(伝統音楽ではないという意味)は全て 12平均律。つまりは、12平均律を通してしか音楽の世界を見ていないことになります。更に脱線。言語社会学にサピア・ウォーフの仮説というのがありました。今でも有効な仮説なのかは知りません。「人間は言葉の網の目を通してしか世界を見ることはできない」という仮説で、例えば「空の」ドラム缶や家畜のし尿が溜まった「池」の横で平気でタバコを吸っているのは、「空の」とか「池」とかが持つ言葉の網の目を通して世界を理解しているからだというものです。音楽も 12平均律の網の目を通して、と言うか無限にある音の中で 12個だけが網の目を通り抜け、我々の耳に聴こえてくる。「人間は 12平均律の網の目を通してしか音楽をやれない」これ Shunky の仮説です。
音楽で使う音の高さを決めるのが音律、その中から更に音を選んで並べたのが音階 (Scale)
This page originally written on 2020.12.15, revised on 2021.8.21
コメントを残す